古代氏族 倭文氏(しとりうじ)は 「天羽雷命(あめはいかづちのみこと)〈建葉槌命(たけはつちのみこと)〉」を祖神とします 全国各地に祀られた式内社は 「倭文(しとり しずり しどり しとおり)」を社名に持ち 倭文氏の祖神を祀る式内社とされ 各国に13社が記されています それぞれの現在の論社も紹介します
目次
倭文(しとり しずり しどり しとおり)について
倭文は〈古代に植物の繊維で格子などを織り出した布〉をさし 日本古代の織物「倭文織(しずおり)」の意で 「倭文布(しづり)」から来ています
「文」は「あや」 文布(あやぬの)の意です
倭文織(しずおり)に 使用された植物の繊維とは
倭文織(いずおり)に 使用された植物の繊維は ①麻(あさ)と ②栲樹(たくのき)〈梶の木(カジノキ)〉と伝わり この木皮等からの繊維で 木から綿を作り 文様を織り出したとされています
①麻(あさ)と神道の関係について
古来より神道において非常に重要な植物繊維として扱われてきました
麻が神道で重んじられる理由には
・清浄の象徴
麻は「穢れ(けがれ)」を祓う性質があるとされ 清浄・潔白の象徴
神道では「清め」は最も大切な概念のひとつであり 麻はその象徴的な素材
・生命力と繁栄の象徴
麻は成長が早く まっすぐにすくすく伸びるため 生命力・成長・繁栄の象徴とされました
古くは子供の成長を祈って麻糸を身につける風習もありました
・神々の依代(よりしろ)
麻の繊維や糸は 神の霊力(たま)を宿すものと考えられました
祭具や神衣に用いられるのも 神霊を迎え、清めるためです
神道における麻の具体的な用途例
| 用途 | 説明 |
| 注連縄(しめなわ) | 麻を撚って作ることが多く 神域を示し 穢れの侵入を防ぐ結界として用いる |
| 大幣(おおぬさ)・祓串(はらえぐし) | 麻の繊維を垂らし 祓い清めに使う |
| 神職の衣(麻衣・あさぎぬ) | 神官が着る装束に麻が使われ 神前に立つにふさわしい清浄を表す |
| 御幣(ごへい) | 紙垂(しで)とともに麻が使われることがあり 神霊を宿す依代 |
| 神棚・御神体への供え物 | 「麻」と「木綿(ゆう)」を供える「麻績(おみ)」の習俗あり |
②栲樹(たくのき)〈梶の木(カジノキ)〉と神道の関係について
「栲(たく)」や「栲樹(たくのき)」は 古代日本では 神聖視された木であり 神に捧げる布(神衣)を作るための原料として特に重要な意味をもちました
「栲(たく)」は 楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・楡(にれ)などの樹皮繊維を指す古語とされます
これらの繊維を水に晒して白くしたものが「白栲(しろたへ)」
「白栲(しろたへ)」は 神事や祭祀に用いる布(神衣・幣)などの素材とされました
神衣・神服(しんぷく)・祭衣の材料
「栲布(たくぬの)」として衣や布に加工され、神への奉納布や祭服に用いられました
神璽・神具・神棚用の装飾
祭具に掛ける布(瑞垣、幣帛)・神饌や幣帛の包みなどに神聖な布素材として栲布が使われした
幣帛・御幣の材料
「幣(ぬさ)」や「御幣(ごへい)」の紙や麻と同じく 栲の繊維は清浄性が高いとされ 晒した白栲布を神前に捧げ 神聖な素材でした
織物・呪具(まじない具)
栲の繊維は丈夫で 古代の神事用紐(ひも)・結界縄などにも用いられ 特に「栲縄(たくなわ)」として 神域の結界や祭壇の装飾に使用されました
古代の信仰と神木としての「栲樹(たくのき)」
神への供え物としての布「栲幣(たくぬさ)」「白栲幣(しろたへぬさ)」は 『古事記』『日本書紀』『延喜式』などにも多く登場します
これを作る木として「栲樹(たくのき)」は 神聖な布を生み出す樹木=神木として尊ばれました
特定の樹種ではなく 繊維を採取して神衣や幣帛に用いた木の総称とも云います
『古事記』天照大神の岩戸隠れの段 に示される ①麻(あさ)と ②栲樹(たくのき)について
『古事記』の天照大神の岩戸隠れの段
天香山の五百津の真賢木(まさかき)を根から掘り取り
上枝に八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま)を掛け
中枝に八咫鏡(やたのかがみ)を掛け
下枝に白丹寸手(しろにぎて)・青丹寸手(あおにぎて)を垂らし
・・・とあります
天照大神が岩戸に隠れた際 天児屋命・布刀玉命ら神々が 三種の神器と同等に扱い ①麻(あさ)と ②栲樹(たくのき)を「天の真榊の枝」に飾ったと伝えられています
上枝 八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま) 三種の神器の一つ
中枝 八咫鏡(やたのかがみ) 三種の神器の一つ
下枝 白丹寸手(しろにぎて)⇒白栲幣(しろたへぬさ)
下枝 青丹寸手(あおにぎて)⇒麻の青い幣帛
白栲と青和幣は 三種の神器と同等の 清らかな神聖なもの として神への供物・神衣として「天の真榊の枝」に掛けられています
「倭文織(しずおり)」の織物技術を伝えた氏族「倭文氏(しとりうじ しどりうじ しずりうじ)」について
倭文氏は 古代日本の織物技術者の氏族で 特に神に奉る神衣(かんみそ)〈神の衣服を織る氏族〉
五世紀後半の百済系帰化技術民渡来の以前からの氏族で 倭文部という古い織布技術を持った氏族
倭文に関する人名・地名・神社名などは広く分布し
・大和・山城・河内・伊勢・駿河・甲斐・伊豆・常陸・近江・上野・下野・磐代・磐城・越前・丹波・但馬・出雲・美作・淡路等にみられます
倭文氏の祖神は
機織の神 建葉槌命(たけはつちのみこと)『日本書紀』
又は
天羽槌雄神(あめのはづちをのかみ)『古語拾遺』〈天照大御神を天岩戸から誘い出すために 神衣和衣を織ったとされる神〉
〈天羽雷命・天羽槌雄・武羽槌雄など〉
別称 倭文神(しとりがみ)
『常陸国風土記』久慈郡の条にある「静織の里」には「静(しず)神社」が鎮座 武葉槌命を主祭神とします
織物の神 機織の神として信仰され 全国の倭文神社などで祀られています
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1.ご紹介(Introduction)
この神社の正式名称や呼ばれ方 現在の住所と地図 祀られている神様や神社の歴史について ご紹介します
『延喜式神名帳』(927年12月編纂)所載の13社「倭文神社」と論社について
倭文氏の祖神「天羽雷命(アマハイカヅチノミコト)=建葉槌命」を祀る式内社とされ 各国に13社が記されています
又 近江國には 滋賀郡 倭(シトリ)神社がありますので それぞれの現在の論社もご紹介します
1.畿内 大和國 葛下郡 葛木倭文坐天羽雷命神社(大 月次 新嘗)
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・葛木倭文座天羽雷命神社(葛城市加守)
・博西神社(葛城市寺口)
2.東海道 伊勢國 鈴鹿郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・加佐登神社(鈴鹿市加佐登町)
〈加佐登神社が 明治41年(1908)高宮内の17神社を合祀した中に(椎山の下方に鎮座していた)熊野神社の境内にあった倭文神社の祠を合祀〉
3.東海道 駿河國 富士郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
4.東海道 伊豆國 田方郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・倭文神社(伊豆市大野)
・鍬戸神社(三島市長伏)
・小坂神社(伊豆の国市小坂)に合祀
・聖神社(伊豆市月ヶ瀬)
5.東海道 甲斐國 巨麻郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・倭文神社本宮(山梨県韮崎市)
・倭文神社降宮明神(山梨県韮崎市)
・諏訪大神社(山梨県甲斐市)
6.東海道 常陸國 久慈郡 靜神社(名神大)
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・靜神社(茨城県那珂市)
7.東山道 上野國 那波郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・倭文神社(群馬県伊勢崎市)
8.山陰道 丹後國 加佐郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・倭文神社(京都府舞鶴市)
9.山陰道 丹後國 與謝郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・倭文神社(京都府与謝郡与謝野町)
10.山陰道 但馬國 朝來郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・倭文神社〈鮭の宮〉(兵庫県朝来市)
・妙見宮〈国常神社〉(兵庫県朝来市)
11.山陰道 因幡國 高草郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・倭文神社(鳥取県鳥取市)
12.山陰道 伯耆國 川村郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・倭文神社(鳥取県湯梨浜町) 伯耆 一之宮
13.山陰道 伯耆國 久米郡 倭文神社
『延喜式神名帳(Engishiki Jimmeicho)』所載
・倭文神社(鳥取県倉吉市) 伯耆 三之宮
〈参考〉東山道 近江國 滋賀郡 倭神社(しとりの/やまとの かみのやしろ)
・倭神社(大津市坂本)
・倭神社(大津市滋賀里)





















