八千矛神(やちほこのかみ)は 武神〈いくさがみ〉でありながら 愛の歌を詠む 知性と教養のある神として描かれる
八千矛神〈大国主神〉が 高志国(こしのくに)に 美しく賢い女性〈沼河比売(ぬなかはひめ)〉が居ると聞き 結婚しようと通いました そして 求婚し 結ばれるシーンが 優雅な恋歌によって描かれます
これは 当時 祭祀〈政治(まつりごと)〉を司る上で 「玉(ぎょく・たま)」は 大変に貴重なもので 材料は 上質の翡翠(ヒスイ)原石であった 産出地の高志国〈王女 沼河比売〉は 重要な拠点とされていた これを 出雲〈八千矛神〉の勢力下へ併合する為に 婚姻関係を迫った時の 両国の駆け引きの様子が 〈王と王女の〉優雅な恋歌〈妻問い〉によって描かれたものとされます
・天津神社・奴奈川神社(糸魚川市)《主》奴奈川姫命 八千矛神
『古事記』神話には
「この 八千矛神(やちほこのかみ)高志国(こしのくに)沼河比売(ぬなかはひめ)と結婚しようと行かれた時 沼河比売(ぬなかはひめ)の家に着き 歌を詠まれた」と記されます
天津神社(あまつじんじゃ)・奴奈川神社(ぬなかわじんじゃ)は ・天神を祀る「天津神社」・国津神を祀る「奴奈川神社」が すぐ横に並んで祀られています 鎮座している土地は 富山県との境に位置する新潟県最西端の糸魚川市です 縄文期よりのヒスイの産地として名高い地です 翡翠は古代は「玉」とされて大変貴重な神器でありました 「奴奈川神社」では ヒスイの神「奴奈川姫命(nunakawa hime no mikoto)」を祀ります
天津神社・奴奈川神社(糸魚川市一の宮)
・白山神社(糸魚川市能生)
能生白山神社(のうはくさんじんじゃ)は 白山信仰の開祖 泰澄大師(682-767)が 能生白山神社に仏像を安置布教し 社号を白山権現に改めたと伝えられています 『延喜式神名帳』(927年12月編纂)所載の越後国 頸城郡 奴奈川神社(ぬなかはの かみのやしろ)の論社です
白山神社(糸魚川市能生)
・奴奈川神社(糸魚川市田伏)
奴奈川神社(ぬながわじんじゃ)は 社伝では 第13代 成務天皇の御代 市入命が越後国の国造となり当地に来て 奴奈川姫命の子 建沼河男命の裔 長比売命を娶り 奴奈川姫命の社を建て 神田神戸を寄附したと伝わります『延喜式神名帳』(927年12月編纂)所載の越後国 頸城郡 奴奈川神社(ぬなかはの かみのやしろ)の論社です
奴奈川神社(糸魚川市田伏)
『古事記(Kojiki)〈和銅5年(712)編纂〉』 に記される伝承
【抜粋意訳】
八千矛神(やちほこのかみ)妻問い の段
この 八千矛神(やちほこのかみ)
高志国(こしのくに)沼河比売(ぬなかはひめ)と結婚しようと行かれた時
沼河比売(ぬなかはひめ)の家に着き 歌を詠まれた
"八千矛神(やちほこのかみ)のみことは 八島国(やしまのくに)で 好ましい妻を娶れず ついに 遠い遠い越国(こしのくに)に 賢い女が居ると聞き
美しい女性が居ると聞き 結婚しようと通いました
太刀緒(たちのお)も いまだ解かず 羽織ものも いまだ解きかねて
少女の寝ている家戸を揺さぶると 山のヌエ鳥が鳴き 野の雉(きじ)が鳴き 庭先でニワトリが鳴く 腹の立つ 鳴き声だ あの鳥どもを打ち 静かにしてくれる"
下におります走り使をする者の 事の語り伝えは かようでございます
すると 沼河比売(ぬなかはひめ)は 戸を開けず中から歌いました
"八千矛神(やちほこのかみ)のみこと
しおれた草のような女ですから 浦渚の水鳥のように 夫を慕います
今こそ わたしの鳥 でも後には あなたを慕う水鳥のようになりましょう
命ながく 生かし遊ばせ"
下におります走り使をする者の 事の語り伝えは かようでございます
"山に太陽が隠れたら 暗い夜になるでしょう
朝日のように にこやかな顔で来られて
コウゾの網のような白い腕 泡雪のように若い胸を そっと叩き 手をとりかわし 玉のような手を枕にし 足を伸ばしてお休みなさいませ
ですから あまり わびしく されないでください
八千矛神(やちほこのかみ)のみこと"
事の語り伝えは かようでございます
それで その夜は 会われず 翌夜 お会いになりました
【原文参照】
➈神語り(かむがたり)八千矛神(やちほこのかみ)と須勢理毘賣(すせりびめ) に進む
八千矛神(やちほこのかみ)の御神名は 出雲の勢力を拡大した武神〈いくさがみ〉の神威を表し 併合した各国には 婚姻関係が結ばれ 各々の妻があった この時 嫉妬(しっと)深い お妃(きさき)須勢理毘売(すせりびめ)と交わした歌は〈神語り(かむがたり)〉と伝わり 仲睦まじく 酒盃を交わし 互いに手を掛け合い 今に至るまで出雲に 鎮(しずまり)坐(まします) と記されます
➈神語り(かむがたり)八千矛神(やちほこのかみ)と須勢理毘賣(すせりびめ)
”時の架け橋” 大国主神(おほくにぬしのかみ)
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大国主神(おほくにぬしのかみ)が 坐(ましま)す 古代出雲の神代の舞台へ行ってみたい 降積った時を振り払うように 神話をリアルに感じたい そんな私たちの願いは ”時の架け橋” があれば 叶うでしょう 『古事記(こじき)』〈和銅5年(712)編纂〉に登場する神話の舞台は 現在の神社などに埋もれています それでは ご一緒に 神話を掘り起こしましょう
”時の架け橋” 大国主神(おほくにぬしのかみ)『古事記』に登場する神話の舞台